ML城大広間

人工内耳友の会【ACITA】会報 60より
 
登場人物
   ひ…ひらりん茶坊主
   姫…すずらん姫
   楚…楚竹家老 
   山…山里奉行
   谷…谷六のご隠居(元奉行)
   や…腰元おやす 

ひ  皆様、ML城へようこそおいでくださいました。
   本年もacitaメーリングリストをどうぞよろしくお願いいたしまする。
   ドンドン ドドーン…

や  すずらん姫のお成り〜

姫  皆のもの、つつがなく新年を迎え、まことに祝着至極である。

ひ  本日は谷六のご隠居様も新年のご挨拶においでになっておられまする。

谷  姫様におかれましては、ますますお美しく、かつご健勝のことお喜び申し上げます。
   さて、拙者、隠居いたしますれども、昨今の城内の規律乱れることはなはだ由々しきことと
   存じ上げますれば、このまま捨て置いては…

姫  新年早々堅苦しいことを申すでない。
   さてさて、正月も明けて退屈ぞ、楚竹や、なんぞ面白き趣向はないものか?

楚  本年の干支、十二支は第8番目のひつじ「未」の年でござります。
   「未」は暗い(昧)と言う意味と、若いと言う意味があります。
   姉は市(嫁)に出せますが、妹は未熟なので、女と未で「妹」です。
   魅力いっぱいの若い花嫁さんも、加齢によってやがては恐ろしき鬼婆となり…

ひ  コホン、ご家老様、それはちと言い過ぎでは…

楚  失礼申した。横道に逸れました。
   では、このお目出度い「羊」を含む文字を各句の初めに当てて、
   漢詩のまねごとなどをいたしましょうぞ。
       (註・平仄
【ひょうそく】不定で漢詩ではありません)

   『新春』
  祥雲暁色耀天地
  洋上遥望昇初日
  群飲独酌二日酔
  翔翔献寿新春嬉

  祥雲暁色天地耀き
  (幸せを呼ぶ雲は赤く染まり、天地は輝き始めて)
  洋上遥かに望み、初日昇る
  (洋上遥かに望めば、今まさに初日が昇らんとしている)
  群飲独酌二日酔う
  (忘年会で皆と或いは独りで酒 を飲み、毎日毎日酔っている)
  翔翔として寿を献じ新春をたのしむ
  (年改まり、謹んで賀詞を述べ、新年を迎えられた喜びを楽しんでいる)

山  さすがご家老様。ご立派なものでござる。誰ぞお相手するがよい。
   これ、ひらりん、相手をせよ。

ひ  そんな、急に言われましても。
   し、しばし、お待ちを。
   漢和辞典はどこいったんやら…
   平仄はもちろん、語順もええ加減ではありますが、では、参ります。  

   『寿春』
  群青天空映湖面
  翔鳥高昇凧如連
  美色黒髪無昔姿
  祥風撫頬只不変


  群青天空、湖面に映え
  (群青色の空が湖面に映っている)
  翔ぶ鳥高く昇りて、凧連なる如し
  (鳥が数羽天高く飛んで、まるで凧が連なっているようだ)
  美色黒髪、昔の姿なく
  (美しい姿も豊かな黒髪も、昔の面影はなく)
  祥風頬を撫で、只変わらず
  (頬をなでるめでたい風のみが変わりない)

谷  頬は桃のごとく柔らかく、黒髪が風に流れて…若いお人は美しいものですな。

山  やっぱり、女子はこれ若いに限りまする。

姫  その方ら!それはわらわへのあてつけか。
   どうせ、わらわは嫁き遅れの姫じゃ…うううっ

谷  姫さま。滅相もござりませぬ。

ひ  ありゃありゃ、とんでもない展開になってしもうた。
   ご家老様、なんぞ趣向を変えて姫様のご機嫌を直してくだされ。

楚  さすれば、次は折込み川柳といきましょう。
   五七五の頭に「ひ・つ・じ」の字をあてるとよろしい。ではお手本。

  ひ 人の声
  つ 遂に聞こえて
  じ 人工内耳

山  そそ、そうでござった。音入れのときは、「感激したー」

楚 ひ 一言が
  つ 通じてうれし
  じ 人工内耳

  (これぞ、生の声)
  ひ 引き続き
  つ 使って愛し
  じ 人工内耳

  (生涯の友、決して離さず)
  ひ 日向ぼこ
  つ つめ切る音や
  じ 人工内耳

  (パチンパチンと小さな幸せ)
  ひ 昼寝時
  つ 着けっぱなしの
  じ 人工内耳

  (装着部がゴツゴツするが)

谷 ひ 人のはなし
  つ ついに聞こえず
  じ じれったい

  思えば、ちょうど12年前のひつじ年のことでありましたな。
  その後、人工内耳との付き合いが始まりました。
  ひ 人のはなし
  つ つじつまあわせで
  じ 人工内耳

  手術したところでまともには聞こえぬし、適当に話を合わせたり、
  そこそこの苦労はあったが、
  今でこそ、このように大広間で皆様と楽しく話もできようぞ。  
  ひ 広い部屋
  つ つづいてきこえる
  じ 人工内耳

山  拙者、この前、山の見回りに行きましたら、雪中で「もーし、もーし」と呼ぶ声が
   聞こえまして、振り向くと、非常に美しい女人が立っておりまして、

谷  ほうほう。それはまた奇特なことで。で、若うござりましたかな?

山  あとから考えればあれは雪女だったかもしれませぬなぁ。
  ひ 一目ぼれ
  つ 冷たき女(ひと)よ
  じ 時節柄

姫  まだ、申しておるのか!懲りないお人らじゃ。では、わらわも一句。
  ひ 日一日 
  つ つながる会話 
  じ 人工内耳

   装用後は一日一日と聞き取りが向上して会話がつながっていった喜びは大きかった。
   聞こえるとはどういうことかと考えるとそれは楽しいことだって思う。
   人と会う、人と話す機会がどんどん増えていく。
   宴会や寄り合いも増やしたいところだが、昨今の平成大不況、
   お城の台所事情も逼迫しておるそうな。
  ひ 必然と
  つ つきあいへらす
  じ 時勢かな

   皆のもの、引き続いて節約に励むべし。これ、奉行、聞いておるか

や  お奉行様、姫様がお役目のことお尋ねですぞ。何をぶつぶつと?

ひ ひ 独り言
  つ つぶやき可笑し
  じ 人工内耳

   ひとり、もごもごつぶやく声も自分の耳にはちゃんと届いて笑うてはります。

山  できましたぞ。お役目遂行する上で一番重要なことはですな、これです。
  ひ ひたむきに
  つ 貫き通す
  じ 自由意思

ひ  中途半端の耳であっても、やれ、紙だ、筆だと用意せずにすんで
   ホンマに簡便なことです。
  ひ 筆談なく
  つ 付き合いできる
  じ 人工内耳

   (ドンドンドドーン ドンドーン)

家来 火事でござるぞー

ひ ひ 避難訓練
  つ 通報聞こえる 
  じ 人工内耳

   聞こえなかったときは避難訓練もただ人の後をついていくだけ。  
   今や、お触れ太鼓もよく聞こえ、臨場感たっぷりで、シミュレーションでござる。

や ひ ひかり見え
  つ つらき日忘る
  じ 人工内耳
 

山  光ではござらぬ。あれは火の手じゃ。訓練でもござらぬ。
   ほんまもんの火事ですぞ。

楚  して、火元はどこじゃ

山  どうやら、ML城の電網の間から火の手が上がっておるようでござります。

や  姫様、ご隠居様、早くお庭にご避難あそばせ。

ひ  ゆめゆめ人工内耳のマイクを落とされませぬよう。

姫 ひ 悲喜劇も
  つ 伝えてくれる
  じ 人工内耳

  ドンドンドドーン ドンドーン

ひ  ML城、ただ今取り込んでおりますれば、またのお越しをお待ち申しております

                     ※お断り  
                                      「未」年の説明、漢詩もどき、各折句はご本人の作でありますが、 
                                      コメントやストーリー、キャラクターはすべてひらりんの創作です。  

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