勝手にコーヒーブレイク(55)   《白馬岳に登れた》           

 相変わらずの中高年登山ブームで、一昨年頃から山ガールまで出没、山もずいぶんカラフルになった。遠からず山婆になりそうな私もせめて山マダムくらいにはなりたいと、今年はがんばって本格的に白馬岳に登った。

お供は人工内耳仲間の浜本、白石、野明さんのメンバーである。というと、私がリーダー格で3人を連れて行ったような感じだが、実際のところは、かろうじてみんなにしがみつき、助けられて完登させてもらった。

白馬岳は北アルプス登山入門の山なのに、もうへとへとの登り6時間半、頂上の山小屋で1泊して、稜線下りに7時間45分。下りはともかく、大雪渓2時間を含む登りがきつくて、下りるに下りられず見上げれば急登、途中で倒れるかと、つくづく体力無さを実感した。その時はもう、高い山はこりごりだと思っても、苦労して登った者だけのご褒美として、雲海に浮かぶ山々の峰、山肌と夜明けの空を赤く染めながら上ってくるご来光、感動の景色を思い返して山の本をめくっている。

 女性登山家として世界で初めてエベレストに登頂、七大陸最高峰登山も女性で初めて完登した登山家の田部井淳子さん。幼少のころは体が弱くて体育は苦手、かけっこも遅い、逆上がりも跳び箱もできなかった。小学校4年生のときに、担任の先生に連れられて登った那須山系の茶臼山で山に目覚める。山登りは競争がない、ゆっくりでも歩き続けたらいつか頂上に着く。火山である茶臼山は山の上のほうは岩と砂利ばかりで、荒涼とした風景や、川の水が温泉になっていることなど、景色の面白さにも目覚めた

 山では無敵の田部井さんも、未だ泳げないというのもへぇー!そして本格的にスキーを始めたのも50歳からだって。私も今年の2月に10年ぶりのスキーに行った。ひと昔前に比べるとスキー板も滑る技術も以前とはかなり変わっていて、最初はおおいに戸惑ったが、なんとか慣れて、えっ?あたしってけっこう滑れるねんなぁ()

 この本の中に、夏山登山は6月か7月がよい。人も少なく山も静かで、梅雨の晴れ間に高山植物が咲き乱れているので、お勧めシーズンだとある。反対に秋の10月は登山には難しい季節で、晴れたら汗ばむほどになり、崩れると恐ろしく荒れた天気になり、吹雪になったりすると。

その具体的な日付として、2006年の10月7日の天気があげられていた。あ、これって、もしかして…この日は田部井さんも東北の山に登っていて、荒天をもろに受け、白馬岳では遭難死も出た。このとき、私も夫と尾瀬入りしていたのである。7日は雨、8日は風雨激しく、雨に打たれて靴の中まで濡れ、雨具を着こんでいても寒気が体の芯まで忍び寄り、凍えそうになって山小屋のストーブにかじりついていた。山で冷えると恐ろしいことになるというこのときの経験から、その後、すぐにトレッキングシューズも雨具もゴアテックス製品を購入したのである。

山に登るには「行こう」と思う意思、気力、実行できる体力、旅費を支払える財力、気持ちよく送り出してくれる周りの協力の四本柱40歳を過ぎたら背筋を伸ばす姿勢を保つこと」それだけで大腿四頭筋が鍛えられる。

「初心者ほど名山に行くのがいい」夏に手近なところの低山に登ると蚊やアブに汗まみれとなって山は嫌になる。高山なら涼しくて景観も素晴らしく病みつきになる。

先日、テレビ「徹子の部屋」に田部井さんがゲストで出演していた。72歳になった今も海外登山に出かけてバリバリ現役、ザイルを繰って岩山にもアタックの田部井さんがいつもの登山スタイルではなく、シャンソンを歌うときの服を着ていて、上品な白金か青山のマダムという風情でびっくりした。本当に優しい笑顔で、ぜひぜひ私もあやかりたい()

『山からの贈り物』    田部井淳子  角川学芸出版

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