勝手にコーヒーブレイク(53)   《理想の老い方死に方》 

 長寿日本になって、リタイアしてからの年月が昔に比べてうんと長くなった。老後をいかに過ごすか?それだけで本1冊書ける時代である。だいたいは「生き生きと」「前向きに」「明るく」とそればっかり。モソモソと後ろ向きに老いさらばえるほどカッコ悪いものはないとばかりに。

 私って意地が悪いのかなぁ。妬み心があるんかなぁ。がんばって用事をこなしている人、積極的にいろんな活動をしている人、家族の中心となって子どもや夫に尽し、慕われている人を見ると、そこまでやるかぁ?そんなにせっせとやってしんどくないのん?どうせ私なんか怠け者やんなぁ…である。「どうして立派な人に私は落ち込むのだろう」と佐野さんも書いている。

ガンと言われたら、メソメソ落ち込んで暗ーくなったままへたばってもええやないの。

命尽きるときまでがんばる!?なんで、そこまでカッコよく生きないとアカン?

 最近よく話題になる「弧族死」だって、確かに死んでから長く気づかれないと、周りに迷惑をかけるから、できるだけ早く発見されるに越したことはないだろうけど。自分でひとりで生きることを選択したのなら、当然、死ぬときも孤独であることは覚悟の上じゃないんか。だいいち、家族と同居していても、半日くらい気づかれずに死ぬことだってあるし、だれかといっしょには死ねない。人間死ぬときはひとりやんね。ひとり誰にも看取られずに死んでかわいそうだと、周りの人間が必要以上に騒ぎ立てるのもどうかと思う。

 ガンで余命2年と言われた佐野洋子さんは、これからホスピスまでの医療費を訊き、そして、ジャガー(外国車)を衝動買いしたり、韓流ドラマにハマったりで、残りの人生が急に充実してきたそうだ。長く苦しんだうつ病もほぼ消えたって。

「なんでガンだけ『ソウゼツなたたかい』っていうの?別にたたかわなくてもいいじゃん。私、たたかう人嫌いだよ」

 友人との付き合いを断絶しても、その前にレバーペーストの作り方はしっかり教わっておく。カード使用明細書を見て、電気屋で12万も使って、何買ったっけ?と半分呆けているのも可笑しい。

 「あーあ、あと何年自分で金を下ろせるだろう」銀行のATMの前でいつも多少モタモタする私もホンマにそう思うが、87歳の義母はまだ一人で下ろしているから、私ももう少しは大丈夫かな。それより、あと何年、パソコンやデジカメを使いこなせるだろうか、そっちのほうがよっぽど心配です。

 老人は昨日の飯を忘れても幼年時代の記憶がめりめりと鮮やかになっていくそうだ。ということは、やっぱり、子どもには良い思い出を作ってあげないと、と思っても後の祭りで、子育て中は夫とケンカばっかりしていた私。バアサンになってもせめて良い姿勢で歩いていたら、知り合いに何をいばってふんぞり返っているのと言われたって。猫背気味の私も、歩くときくらいはシャンと頭のてっぺんから吊り下げられている状態で闊歩しているのに、それも無駄な努力なのかもしれない。

 「携帯には気配のコミュニケーションがない」なるほどね。相手の不機嫌な声を聞かずに済むのだ。生身不在の感情欠如の文字だから、どうしようもないドロドロの親子関係もサラサラにごまかせたりするわけか。せいぜい携帯メールで家族崩壊しないようにがんばります。

 佐野さんは昨年11月に亡くなられたけれど、「淡々と豪快に生きる」は理想の老い方、死に方だと思う。

 どんなしんどい状況になっても、とりあえずはご飯を作って食べよう。そう思わせてくれる本ですが、死ぬときがくるまで、私自身の生きようはわからへんね、やっぱり。

「役にたたない日々」   佐野 洋子    朝日文庫

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