勝手にコーヒーブレイク(50)   《男の本音女の願望》          

猛暑お見舞い申し上げます。と、書き出したくなる今年の暑さである。8月はサークルや趣味のお稽古も休みなので、比較的ゆったりと過ごせて、家中主婦となった。ま、家に居るからといって、主婦業に邁進するわけでもなく、ゴロゴロと主婦の特権を行使しただけだが。

 奥田英朗『家日和』は家庭生活にまつわる短編7編を収めてあり、女性週刊誌の4コマ漫画を見るような、「あ、あ、ある、ある、こういうのって」や、「そうやねん、そこ男と女の食い違いやねん」と思わずツッコミたくなる話が載っている。

 初出は3年前なので、今、全盛のインターネットの「ツイッター」は出てこないが、ネットオークションを素材にした「サニーデイ」が面白い。子どもも大きくなり、夫ともかみ合わず、私っていったいなんだろう??の今どき主婦の主人公が、ある日、妹から勧められたインターネットオークションにハマっていく。「もはや金額ではなくなっていた。反応のあったことがうれしいのだ」ネットオークションのやりとりを重ねて、活き活きと日々美しくなってゆく。

 私も10年前にインターネットを始めたころは、メールやチャットにのめりこんでいたから、気持ちはよくわかる。が、それで、たちまちキレイになったかというと、充実はしていたけれど、そこまで身体的に美しくはなれへんやったよ。

 サニーデイというニックネームで得たお金で、美味しいものを食べ、エステに行ったり、単行本を買ったり。いつもは読みたい本は図書館で済ませていたのが、評判の単行本を2冊誇らしげにレジに持っていく。本の中身よりも、そうやって本を購入して読書している自分が快感だ、という気持ちは何となくわかる。

 この私だって、毎回、会報に文章を載せている自分、サークルでがんばってる自分、そういう「よくやってます」自分に対してパチパチと自己満足だけなんやし。

 女の気持ちも細かいところまで描けてはいるけれど、「しわが1本消えた。化粧もちゃんとした。香水も振りかけた…自分は輝いている」とあるが、ふつう、日本の庶民主婦は香水はつけないでしょう。昔から欧米至上主義の日本の女性も香水だけは定着しなかった。香水振ればお洒落、というのが男目線だなと。

 初めてピクニックテーブルを出品してから、健康ぶら下がり器、コーヒーカップ、椅子、あげくは、物置に眠っていた夫の昔のフォークギターに、レアもののレコードプレーヤーまで夫に内緒でオークションに出してしまい、値がつり上がっていって、さて、サニーデイさん、どうする!?

 「ここが青山」は失職した30代のサラリーマンが、それをきっかけに、妻が元の職場に働きに出て、夫が家事と育児の主夫業に専念する。2人とも逆転生活に満足とヨロコビを感じているのに、世間の一般常識のジェンダーは根深い。失業夫に向けられる周りの同情、励ましの言葉や視線を浴びながら、「イヤ、主夫業も楽しかり」と言い出せないジレンマ。「人間至る処青山有り」ということわざを引き合いに出されて慰められるも、「にんげんいたるところあおやまあり」ってなんじゃらほい。正しくは、「じんかんいたるところせいざんあり」ひとの住む世の中はどこにでも骨を埋める場所はある、といった意味合いなのだ。

 「夫とカーテン」「妻と玄米ご飯」など身も蓋もないタイトルが並ぶが、男の本音、女の願望のすれ違いが可笑しくもあり、状況は緊迫しても、決して深刻にはならず、微苦笑を誘う小さな家物語が展開される。

『家日和』  奥田英朗   集英社文庫
 

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