勝手にコーヒーブレイク(40)   《ガネーシャの魔法》            2008/02

 人生指南書、生き方読本、心の持ち方、幸せを見つける法、その他もろもろのハウツー本にスピリチュアル…「分かりきっていることを、そないに大層にもったいぶって言わんでもええやん。
あんたにそんなこと言われたないわぁ」って好かんかったけど、関西弁をしゃべる象の神さんの話に興味そそられて「夢をかなえる象」を買ってしまった。

 可もなく不可もなく、しかしいつも「こんなはずでは…」とギリギリふつうの生活を送っている僕の部屋に、ある日突然「だれやあれへんがな、ガネーシャやがな」と変てこりんなインドの象の神さんが出現した。

 “あなたの夢をかなえましょう”

 ガネーシャは僕に毎日ひとつずつ課題を与えて、成長と成功に導こうとする。
昔から言い古されている「靴をみがく」「会った人を笑わせる」「その日頑張れた自分をホメる」当たり前で、ある意味陳腐な課題がガネーシャの口からおかしな関西弁で語られると、ホンマやなぁ、私にもできそうやなぁ、という気にならされる。

 神様仲間の釈迦とはお友達、ニュートンもピカソもビル・ゲイツくんもワシが育ててやった、松下の幸ちゃんが「すべての責任は自分にある」と言ったとか、偉人、成功人のエピソードがぱらぱらと入っているのも楽しい。

 「楽なもんで体にええもんないわな」だらしなく椅子に座ってパソコンしていると、どんどん猫背になっていく、口当たりのいいもんばっかり食べていると、顎関節が弱くなるし、お手軽チンの冷凍食品を使っていると農薬に当たる!「そやそや」と我が身を省みて妙に納得してしまう。
しかし、冷静に考えたら、洋式トイレなど、楽で体にええもんもいっぱいあるやんか。

 私くらいの年になると、もう、成功したいとかの上昇志向は失せて、現状にどっしりと胡坐をかいてしまっているが、仕事や生き方に夢や希望、挫折や後悔が坩堝のごとく、胸のうちがごっちゃごちゃになっている若い人たちには、この不思議な小説はためになるかもしれない。
これはニートやフリーターから脱するためのアドバイスでもあり、励ましでもある。
「人間が変われるのは立って、何かをした時だけや」思考ではなく行動や体験が大事なのね。
「期待は感情の借金やから」だから、気分が高揚した後でへこむのである。

 あんみつ、シュークリーム大好き、まじめかと思えば、ふざけてええかげんなことばかり言うガネーシャ。うんざりする僕もいつしか、ガネーシャとの生活が楽しくなってくる。そして、僕が本当になりたいもの、それへの道筋が見えてきた頃に、ガネーシャの身体は徐々に透明になって、僕の前から消えていった。

 最後の言葉、「世界を楽しんでや、心行くまで」は偏屈な私でもほろりとさせられた。

「夢をかなえる象」 水野敬也   飛鳥新社

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