勝手にコーヒーブレイク (33)   《昔、流行ったあの場所》        2006/05

 中国の大学生にも大人気の村上春樹の小説、私は彼のエッセイが軽妙で面白いので大好きなのだ。春樹ブランドで読んでいるところもあるけれど、ひと昔前のノンノ雑誌に載っているようなちょっとおしゃれでノホホンとしている雰囲気もいい。

 さて、今回は旅の本、「地球の歩き方」じゃなくて、「地球のはぐれ方」という人を食ったタイトルで、ふつうなんだけど何となく可笑しい所を春樹隊長以下3人で案内してくれる旅のエッセイ。

 熱海、清里といったかつて大ブームを起こした観光地のその後はいかに?見てはいけないものを見てみたいような落ち目加減な場所である。
 まずは信州の清里高原へ。元は敬虔なクリスチャンのラッシュ博士が実験農場として開いた清泉寮から清く正しく始まったのに、どこでどう道を踏み外したのか、安っぽいメルヘンもどきの観光地と成り果ててしまった。70年後半、麦藁帽子にサンダル、フリルのワンピースの女の子たちが白い板壁のペンションへどっとつめかけた。憧れの避暑地体験をしたあの高原は今、どうなっているか?駅前の張りぼてな土産物屋は空き店舗が目立つものの、昔女の子だったヤングママたちがファミリー観光客となってまずまずにぎわっているそうな。

 零落激しいのは熱海温泉。海岸通は廃業のホテルが廃墟化して、まばゆいはずの夜景も「62万ドル」と下落?「ナイトクルーズというよりは夜間沿岸遊覧船」と春樹流の言い回しが冴える。しかし、その熱海、山手に秘宝館だかなんだかの妙な建築物あり。だいたい、昔の観光地ってこういうのが多い。私が中学生の頃、家族旅行で伊豆の下田を訪れたときもこの手のモノが観光バスに組み込まれていて、子ども心にも「これはちょっと見たらアカンのんちゃう?、こんなもん堂々と展示してええのんやろかと」横目チラチラ目の置き所に困った経験がある。いたいけな子どもにこんな思いをさせるなんてどういう観光バスなんや?全くもう。

 ハワイ案内も、ちょっとマイナーでチープなハワイアンショー見物だとか、エイといっしょに泳ぐなどふつうの日本人観光客は行かないような所を案内してくれる。オアフ島の神社仏閣(平等院・金毘羅宮・本願寺に出雲大社まで)めぐりだとか、ハワイの日常食べ物やマイタイの美味しいお店、ひと昔前の南国パラダイス雰囲気を味わえる所など、ハワイ好きな人には面白そうだけど、ハワイに行ったこともなく、いまのところ行く予定もない私にはあまり記憶に残らないというか…でも、ワイキキというのは、「何ひとつ考えなくていい、ただそのままアホになればいい」というきわめてゆるめの時を過ごせる場所のようだ。ハワイは年取ってからのお楽しみに残しておきたい。

 しかし、なんといってもこの本の極めつけは魔都・名古屋である。1週間名古屋に滞在しての取材は隅から隅まで名古屋人もびっくりの不思議なもので満たされている。
「味噌煮込みうどん」はもとより、「しゃちほこ丼」やら「コーヒーぜんざい」やら和洋折衷特大モーニングサービスから、名古屋婚礼事情まで。

 3年前のACITA名古屋懇談会は日帰りプランだったので、結局何も食べられなかったことが、今頃になって残念極まりない。今度名古屋へ行くときは、あんかけスパゲッティなどを試してみたいもんだ。
 そのほか、江ノ島、サハリンと、何の脈絡もなくウロウロと、はぐれ三羽烏よろしく、可笑しな旅の観察が続くのである。

 「東京するめクラブ 地球のはぐれ方」  村上春樹・吉本由美・都築響一                                             文芸春秋
 

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