《御巣鷹のドラマ》      勝手にコーヒーブレイク  (24)     2004.02

 世間を騒がせる事件が合い続く最近では、事件そのものがどんどん風化していく。それでも忘れられないものも多い。
「クライマーズ・ハイ」は今、売れっ子の横山秀夫が日航ジャンボ機墜落事故を題材のひとつにとった長編小説である。

 群馬県の地方新聞社で日航事故の全権デスクをはった主人公の過去と現在が、交互に語られてゆく。墜落事故の記事に関して新聞社内の上下、同僚との確執。実母や息子に対するわだかまり、山仲間との谷川岳登攀、それぞれの出来事が息つまるような熱さでもってドラマチックに語られてゆく。これだけ追い詰められてがんばってれば、確実に寿命が縮みそうだけど、ま、小説だからね。

 新聞が出来上がってゆくまでの1分を争う時間との戦いや、新聞記者たちのプライドをかけた言い争いなどがとても興味深い。他社を出し抜くスクープ記事を抜きネタという。あわや最大のスクープをものにできるか?の展開にハラハラする。ホントに、こんな風に毎日ヤイヤイわめきながら新聞の編集をやってるんだろうか?
 墜落現場の山の名前が特定されるまで、長野群馬県境の御座山、小倉山、扇平山、三国山と取りざたされて、最終的に群馬県御巣鷹山という忘れられない名前に決まった。
「この山が引き受けたのだ。他のどの山でもなく、世界最大の事故を、あの御巣鷹山が引き受けたのだ」

 ならば、自分も新聞記者として、最大の決意を持って臨むべきだと主人公は思ったのだろう。部外者にはどっちでもいいようなもんだが、墜落場所が長野県か群馬県かで、警察や新聞社は自分のところの管轄かどうかで、ずいぶんと対応が異なる。

 「パパは本当に残念だ」「本当に今迄は幸せな人生だったと感謝している」「子供達のことをよろしくたのむ」「しっかり生きろ」

 残された手帳の切れ端の遺書の言葉は、今、読んでも涙が出てくる。小説の中のまぎれもない真実。真実の重みが涙をさそう。

夫婦だからこそわかりあえること。夫婦であっても永久にわかりあえないこと。
ある意味で、不器用なのかもしれない主人公は家庭でもくつろげなくて、疎外感を味わっている。

命の重さ。メディアが人を選別し、等級化し、命の重い軽い決め付け、その価値観を世の中に押し付けてきた。

 家族、報道、仕事の是非や価値観が問われるテレビで泣いてもらえる命は大きいのだろうか?精神のバランスをとるためには、泣きたいときに我慢するのはよくない、といわれたって、バラエティ番組の中でタレントが再現ドラマに安易に泪を流すのはやっぱりどこか変だ。
 掲載した記事が原因で、社長に疎まれ、主人公が記者のバッジをはずそうとしたとき、「たとえ山間支部に飛ばされても記者を続けろ!」と、それまで様々の軋轢のあった同僚が体当たりで阻む。そして、日航事故の取材で共に苦労した若い記者が言う。

「どこへいったって、俺たちの日航デスクは悠さんですから」
主人公は自分ほど幸せな男はないと落涙する場面は、うーん、男のドラマですね。ハッピーエンドできっちり終わり、仕事、家族、友人、山と、ドラマが満載の読み応えのある一冊だった。
 クライマーズ・ハイとは興奮状態が極限にまで達して恐怖感がマヒする状態のことをいうらしい。岩登り以外の山の場面がもっとあればよかったのに、というのは欲張りすぎというものだろう。

               『クライマーズ・ハイ』        横山秀夫 文芸春秋

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