《パソコンにハマる》 勝手にコーヒーブレイク
(16) 2002.02
私が始めてパソコンに触ったのは2年半前のことである。すでに家にパソコンはあったものの、「わからない者は触るべからず」とばかり、でかい顔して和室に陣取るパソコンには、恐れ多くて近づこうとも思わなかった。興味はあったけれど、余りにもハードルが高そうで先延ばし…
ようやく、初心者教室に参加して初めてマウスやキーボードを使い、簡単な「お知らせ」作成を習ったが、なにもわざわざパソコンで作らなくても今までのワープロで充分だわ、と感じたものだ。
「ワード(パソコンのワープロソフト)の親切、よけいなお世話」といわれるくらいに複雑な機能のあるワードは使いこなせないのである。こうすればこうなる」という簡単な原因と結果が見えないのだ。
その後、表計算の「エクセル」も一応習ったが、会社勤めをしているわけでもないから、複雑な計算やグラフなんか必要なし。どうしてもすぐに調べたいときにインターネットを使うこともあったが、調べ方もよくわからないまま、パソコンと深くお付き合いすることなく、ズルズルと2年が過ぎていった。
それが、今じゃ、パソコンなしでは夜も明けない生活に一変してしまった。
昨春にacitaメーリングリストへの入会したのが泥沼の入り口。徐々にメール友だちを増やし、きれいな絵のついたメールを送りたい、名刺を作りたい、デジカメ写真を撮ってみたい、年賀状を作りたい、パソコンで絵を描きたい…そして、みんなに見てもらいたい。ついでにちょこっと褒めてもらいたい、と欲望はとどまることを知らず。かくして、コリコリ肩とショボショボ目のご機嫌伺いしながら頭までどっぷりと、パソコンにハマってしまっている毎日である。
パソコンを始めるなら早いに越したことはない。特に高齢者がつまづくのはマウスの操作のようである。ワープロでキーボードの操作は何とかできても、クルクルと自分の思うようにマウスを動かすのはなかなか難しそう。機械や電気製品は最初にマニュアルを読んでから、操作をするものだが、パソコンは初めにマニュアルを読んでもまずわからない。触っていると何となくわかってくるという代物である。
パソコンは一人で習得するには莫大な時間と無駄な努力が要るから、近くにパソコンのことをある程度わかっている人がいることが大事だ。ただし、親切に教えてくれる人に限る。家族間ではえらそうに指図されたりして、うんざりと嫌気がさしてしまうからね。
毎日、毎日やっていると、ほんのちょっとした疑問がこれでもか、これでもかと湧いてくる。ひとたび「何でこうなる?」と疑問を抱いてしまったら、あとは底なしの沼にはまっていくのみ。
それがいやなら、今の状態でそのまま使っていくことである。IT講習くらいで満足しておけば、パソコンは便利に使える。私みたいにあれもこれもと欲を出していくと、ついには家事も手抜きだらけ、好きな本も読まなくなり、ガーデニングもほったらかし、目は悪くなるは、肩は動かず、腰は痛むは、睡眠不足でダウン…の悲惨な状態に落ちていくのだ。
でも、ウフフ…楽しい。はっきり言えばかなり面白い。イヤ、とっても楽しい。この魔力には抗えず、日に何時間もパソコンとにらめっこ。
今、通信手段としては、手紙、電話、ファクスより圧倒的にメールが多くなってきている。パソコン本は山ほどあるが、これはメールの書き方といったハウツウ物ではない。作家の村上龍が自らのメールを用例として出して、メールというものの新しいコミュニケーションのあり方を述べたものである。中田英寿や坂本龍一に宛てたメールなども載っている。
メールがここまで広がってきた理由はコストが安いこと、速いことである。特に仕事に関しては不可欠である。パソコンのインターネットなら一ヶ月数千円位で、ホームページを何時間見ようと、何通メールを送ったり受け取ったりしてもタダなんである。
ちなみに私は3ヶ月間で600通足らずのメールを送った。また、同じくらいのメールを受信している。そして、外国に住んでいる友人ともリアルタイムで近況のやり取りをしている。
「自分の感情や思いを伝えるときは別のツールを…コミュニケーションはとしては直接会って話をすることが一番」
メールよりもファクス。ファクスより手紙。手紙より電話より会って話すほうが相手の感情などにじかに触れるわけだから、コミュニケーションとしては確実なわけである。
私はお遊びに書くのが多いからしょうもないこともダラダラ書いているが、メールというのは基本的には用件を伝えるものである。だから、簡潔であることが一番大切。手紙のように時候の挨拶も不要。持ってまわったような丁寧過ぎる文章もおかしい。
パソコンやメールには縁のない人も読めば、メールの文章というのはどういうものか、今までの手紙文とどこがちがうのかなど、よくわかってそれなりに面白い本だと思う。
また、少しでもメールをやっている人や、仕事でメールを使っている人にとっては、メールの文章の書き方など参考になることが多い。
何事に関しても熱中してはすぐにさめてしまう私であるが、10ヶ月間、未だに飽きずにパソコンにしがみついているのは、パソコンというのは先が見えないからだろう。パソコンであれもやりたい、これもやりたいと興味の尽きることがないのだ。決して、研究熱心でも、習得に努力しているわけでもない。ただ、夢中になっているだけである。家の者ににらまれつつ…
『eメールの達人になる』 村上龍 集英社新書
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