《不思議の脳世界》 勝手にコーヒーブレイク
(15) 2001.11 人の身体については隅々まで調べ尽くされてきたが、最後の砦の脳についてはまだまだわからないことがいっぱいある。 私たち人工内耳装用者が術後、初めて音を聞いたときのあの何ともいえない機械音が、少しずつ人の声らしく聞こえてくるのは感動ものである。脳の働きを身をもって知った思いがする。 長期間眠り続けてきた左脳の言語聴覚分野に音が入って、活動を始めるとここの温度が高くなるそうだ。ロボットの知能回路なら、とっくにサビが浮いて使い物にならないだろう。昔聞いた音や声の記憶だけを頼りに、それらしく聞こえてくるのはいったいどういう仕組みになっているのかと思う。脳というのはかなり可塑性があって、順応できるのだろうか… その反面、小児への人工内耳はだいたい5〜6歳を過ぎると、言語取得が難しいという。また、英語の発音も幼児期から始めるほうがよいなど、あらゆる教育は早ければ早いほどいいという早期教育推進論がある。 『脳を知りたい』に早期教育は本当に有効なのかという話が書いてある。小学校にあがる前から漢字の読み書きができて、難しい数学の問題が解けたとして、その子は本当に幸せなのだろうかと。親としては子供の好奇心を伸ばせる環境を用意することが最良の教育なのでは?と。言うは易し。実際のところ親にすれば、好奇心を伸ばすためにはどうしたらいいかわからない。手っ取り早く、すぐに結果の出る漢字や算数の点に目がいってしまう。良かれと思ってすることも子供にとってはどうだかわからないし、子供ほど親の思うとおりに育たないのも事実だ。 子供の脳は無限の可能性を持っているともよく言われるが、脳の能力にも限界がある。だから、知識ばかりを詰め込みすぎた脳は他の働きができなくなる恐れがあるという。 長く見えなかった人が手術で開眼者となると、やはり、見えてはいてもそれが何であるかをなかなか認識できないのだそうだ。手で触れてやっとはっきり実体がつかめるという。見ることも聞くことと同じように慣れるまで時間がかかり、リハビリが必要らしい。 「ものを『見る』とは、脳が作り上げたイメージを見ること」聞くこともたぶんこれに似ているのでは? 環境ホルモンと脳の関係、アルツハイマー病、ストレス、失語症患者は左利きの人のほうが回復が早い訳等、脳に関するあれこれが、あまり専門用語を使わずにわかりやすく書いてある。とはいうものの、少し難しいところはとばし読み、斜め読みしてしまったけど、もっと、脳を使って読まなくちゃ。 『脳を知りたい!』 野村 進 新潮社 |