《漫画家の音大入学》 勝手にコーヒーブレイク (6) 1999.08

しつこく、音楽関係の話です。本当は音楽よりも絵画の方が好きなのに、何でこうなってしまうのかと、考えてみる(ヒマですから私)たとえば音楽の演奏なり、表現の場合はかなり共同作業になるが、絵の展示はあまり関係ない?よって、それにまつわる人間関係がちょっとしかない。

カラオケはみんなで盛り上がれるが、1枚の絵をはさんで顔突き合わせても…なんか暗ーい。よって、音楽をめぐる話題はいろいろ書けるけれど、絵ではたいした話題がない。そういうわけで、絵よりも音楽方面のおもしろい本がたくさん出版されることになる。という強引な結論である。

結論が出ても別にどうってことはないんだけど。一人納得、私ヒマですから。

マンガ家池田理代子(大ブームになった「ベルサイユのばら」の作者、恋愛沙汰もあれこれ)は47歳で東京音楽大学の学生となる。どうしても声楽を学びたくて2年間の受験勉強を経て、一般の受験生と同じ学科と実技試験を受けて堂々合格。

有名人の気まぐれとばかりマスコミでもてはやされたものの、大方の予想を裏切って4年闇きちんと通学して無事卒業した。ヒロスエとはおおちがいだ。

「ぶってよマゼット」はこの四年間の一音大生日記である。本の題名の「ぶってよマゼット」とは、彼女が受験の際、選択曲にした歌曲「ドン、ジョバンニ」の中のアリアの中の歌詞。

バッティ、バッティ、オ、ベル、マゼット(ぶって、ぶって、すてきなマゼット)何となく似ている。

このごろは子育ての終わった女性が大学生になるというケースはかなり多くなってきたが、それも一般大学ならできなくもないだろうけれど、音楽大学ですよ。学科試験より実技試験によく受かったなと。

ピアノはもちろん、ソルフェージュ(歌)や聴音やもろもろ。ピアノは中学まで習っていたらしい(私だって習ってた)があとは全く白紙状態。仕事も抱えて(さすがに、かなり減らしたと)猛勉強。

音大に受かったと喜ぶのはまだ早い。普通の大学のようなわけにはいかず、学科授業でも代返などのごまかしはきかない。入り口で受講カードを1枚ずつもらって、授業終了後出口でそのカードを渡すという手のこんだ授業もあり。自分のこどものような年令の若い学生たちと同じようにやっていくのはたいへんで「覚えるのが先か、惚けるのが先か」と必死に勉強。歳のことをのぞけば、あとは普通の学生生活を楽しむ。

普通でないのが、もうひとつ。在学中に超エリートの旦那様をゲット。なんと2人で100歳の新婚。この時はマスコミに散々叩かれたらしい。あの池田理代子がまたも、エリート男性を手に入れた!みたいな感じだったのかな。

学生、主婦、仕事(講演、物書き)をこなし、ぶっ倒れて、2回救急車を呼ぶやら、初めてスキーに行って骨折するやら、歌いすぎて、顎関節症になるわ、旦那様とブータンでトレッキング中に転んで骨にひび入ったり…

池田理代子は本来マンガ家であるが、文章が抜群に上手い。たかがマンガ家と思っていたけれど、やっぱり、なんにつけても才能があるのだ。でも才能だけじゃない。すごく努力している。才能の十倍くらい努力している。

いくら好きなこと、やりたいこととはいえ、ひたすら勉強して頑張らないことには何事もなしえないんだよねえ。と梅雨明け間近の昼下がり、うちわばたばたでワープロしつつ、私ってやっぱりヒマ…

『ぶってよマゼット』  池田理代子  中央公論社

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